『1日でめぐる僕らの人生』4
『Our Life in a Day』 by ジェイミー・フューワリー 訳 藍(2020年09月07日~)
「もう僕たちは戻らないと。主役がいないって、みんなが探し始めちゃうよ」そう言って、トムはこの場を離れようとした。
「ってことは、お前らはこの辺に住んでるんだな?」と、ジョンはトムの発言を無視して言った。
「そんなに遠くはないよ」
「いいね。俺はこいつら仲間と一緒に、北ロンドンで巡業(じゅんぎょう)中なんだよ。すぐそこの〈チョーク・ファーム〉に、ゲイリーが引っ越してきたばかりなんだ。大金が手に入るぞ」と彼は言ったが、ゲイリーとは誰なのか、なぜゲイリーが引っ越してくると、ジョンに大金が入るのか、といった説明は一切なかった。
「そうか」とトムは呆れたように言った。「もういいだろ、僕たちは...」トムはそう言って、エズミーの手を取ると、パブの方へ歩き出した。彼女は僕とジョンのやり取りに、すっかり困惑してしまった様子だ。「さあ、行こう」
「ふざけやがって! わかったよ」とジョンがすごい剣幕でどなった。トムが今なお頑(かたく)なに自分を避けようとしていることに憤慨したのだ。「ちょっと挨拶しただけだろが。お前を最後に見たあの夜、あれから、せめて一日くらいは会う機会を作って、お前から俺に何か言いたいことがあるんじゃないかって、ずっと待ってたのによ」
「トム、何のこと?―」とエズミーが言ったが、トムは彼女の発言を遮った。
「ごめん。僕たちは単なる―」
「どうでもいいよ、相棒。なんだっていいさ。さっさと俺の前からうせろ。早くパーティーに戻れよ」
トムとエズミーが背を向け、パブの方へ歩き出したその時、ジョンが再び彼の背中に大声を浴びせかけた。
「どうやら酒はやめたようだな。伝説の飲んだくれのくせして」とジョンが捨て台詞を吐くように叫んだ。彼の仲間も、関係のない他の喫煙者までも、伝説の飲んだくれがどんな顔をしているのかと、トムの方に目をやった。
トムはエズミーの手を引っ張るようにして、もう片方の手で重厚な扉の、真鍮(しんちゅう)の取っ手を押し開くと、パブの中に入った。階段をのぼり、パーティー会場へ戻ろうとする。しかし、トムは彼女が抵抗して、手を引っ張り返していることに気づいた。
「止まって。トム、ちょっと止まって」
「何?」と彼は言って、エズミーの方に顔を向けた。彼は眉間(みけん)に汗を感じていた。心臓はどくどくと早鐘(はやがね)を打っている。ジョンのもとを離れることができてほっとしている一方で、さっき彼女が耳にしたやり取りで、彼女はすでに多くのことを知ってしまったのではないか、と不安が押し寄せる。
「『何?』じゃないでしょ」と彼女が言った。「さっきのはいったい何だったのか、あなたの方から説明してくれるんじゃないの?」
「彼とは大学で一緒だったんだ」
「そう。なら、旧友に対してあんな態度を取るなんて、私だったら考えられないわね。『お前を最後に見たあの夜』って何? 何があったの?」
「なんでもないよ」
「あなたのことを伝説の飲んだくれって呼んでたわ」
「エズ」とトムは言った。もう一度、なんでもない、と言おうとしたが、彼女の目をじっと見た時、それはできないと悟った。今までのらりくらりとはぐらかしてきたけれど、もう逃げられない。「そこまで悪い話じゃないんだ」
「いいから教えて」
「パーティーの後で教えるよ」
「今よ、トム。今知りたいのよ」
しぶしぶではあったが、ためらいがちにトムは話した。
「僕らは大学で一緒だったんだ」と彼は言った。「1年の時に...いろいろ問題を抱えてしまって」
「問題」エズミーはそう言うと、頭の中で点と点を結びつけようとするように、斜め上に目をやった。彼が過去に彼女に話したあれこれと、今日パブの外で聞いた話をつなげているのだ。「アルコールの問題?」
「そう。そういうことになるね...」なんとかそう言ったけれど、トムはアルコールという言葉を口にすることができなかった。「だから、今は飲まないんだ。若い頃はしょっちゅう飲み過ぎてた」
「嫌な目にあったって」
「え?」
「何度か嫌な目にあったとか言ってたじゃない」
「言ったね」とトムは言った。「でも...それ以上というか...嫌な目どころじゃなくて」
エズミーはまっすぐ彼を見ていた。彼がこれから言おうとしていることに、ほとんど怯えるように彼女の瞳が揺れている。
「寮に一人でいた夜、錠剤(じょうざい)を何錠か飲んじゃって」と、彼は彼女と目を合わすことができず、目を逸らしながら言った。「ジョンが僕を見つけてくれたんだ」
「あなたを見つけた? いったいどういうことよ、トム。また中途半端な話し方して。ちゃんと全部話してちょうだい」
「わかったよ...ちょっと整理するから待って...」
「何を整理するのよ? 起こったことをそのまま話せばいいだけでしょ」と彼女が急(せ)かすように声を上げた。パブのお客さんが何人か興味津々といった感じで二人を見たが、関わらない方がいいと思ったのか、すぐに視線を戻し、感づかれないように二人の様子を窺っている。
「寮に共有の冷蔵庫があって、僕はジョンのビールを盗んだんだ。外に買いに行くのが面倒だったから。それで、俺のビールはどうした?って彼が僕の部屋に来たみたいなんだけど、鍵がかかっててドアが開かない。その時、中から尋常ではない声を聞いて、彼はドアを蹴り破って突入した。そしたら、僕が気を失って倒れていて...ジョンが救急車を呼んでくれたんだよ」
「尋常ではない声?」
「オエーッて吐いてるみたいな声がしたんだと思う」
「トム、あなたはもしかして、私がそう思ってるだけかもしれないけど、あなたがしようとしたのは―」
「違うよ」とトムは言った。「そうじゃないよ、エズ。ただ飲み過ぎちゃっただけで」
「だって、あなたの話を聞いてると―」
「ほんとに違うんだ、エズミー」トムは、そこはゆずれない、と言わんばかりの勢いで彼女を説得にかかった。彼女が思ってるようなことはしてない、と、どうしてもわかってほしかった。「僕はただ、その状態から抜け出したかっただけなんだ。それで錠剤を見つけて、それだけだよ。君もわかるだろ?」
「わからないわ、トム。私にはわからない。私はそんな...抜け出したいとか思ったことないから」
「エズ」
「それで大学を中退したの?」
「僕は大学で苦労したんだ。それはわかってくれる?」とトムは声を張って言った。パブの他のお客さんたちが見ていることは気づいていたが、気にしないことにした。「そうなってしまったのは残念だけど、あんなところ辞めて正解だったよ」
「それから、トム。こんな重要なこと、今まで何度も話す機会あったでしょ? 4年間、あなたが禁酒してるのは、飲むと嫌な気分になるから、だとずっと思ってた」
「飲むと嫌な気分になるよ!」
「じゃあ、なんで今まで言わなかったの」
「エズ、ちゃんと君に言おうと思ってたんだ。ただ、今じゃないなって」
エズミーは階段の一段下から彼を見上げていた。トムは彼女のこんな目を見たことがなかった。彼女が怒ってるのか、悲しんでるのか、瞳の中をのぞいても、何も伝わってこない。いずれにしても、これ以上は言わないでおこう、という決意が固まった。今はまだ、これ以上言うべきじゃない。
「サプライズってこういうことだったの」と彼女が言った。
「エズ、せっかくの誕生日なのにごめん」
「もう戻りましょ」
エズミーが彼を追い抜くようにして、階段をのぼり始めた。彼が彼女に声をかけようとした時、入口の扉が開いてジョンが店に入ってきた。二人は一瞬、顔を見合わせる。
「エズ、先行ってて」とトムは声をかけて、階段を下りた。
彼がパーティー会場に戻ると、エズミーはすでに部屋の向こう側で友人たちと談笑していた。彼女のそばに行って、彼女に何か声をかけようかとも思ったけれど、そんなことをすれば事態が悪化するだけだろう。この件は後回しにして、今はこの場をとりつくろうことに専念しよう。そして夜、二人きりになったら、もう一度話そう。彼女がもう話したくない、と言ってくれればいいな、と思った。事態はすでに十分悪化しているのだ。
彼女を遠目に見守っていると、不意に背中を押された。
「遅れてわりぃ」と、肩越しに声がかかった。ニールだった。横に赤い髪の、ほっそりとした色白の女の子を伴っていた。「ステイスのこと覚えてるだろ?」
トムはうなずいたけれど、意識をそちらに向けられない。彼はまだエズミーを見ていた。彼女はさっきの階段でのやり取りはなかったかのように、喋り、笑い、飲んでいる。
「すべて順調か? 相棒」
「まあね」
「ならいい。いつも通り気の抜けた感じだな、トム・マーレイ。さあ、何か飲むか」ニールはそう言うと、ガールフレンドの方を向いた。「頭を風船にぶつけないように気をつけろ。どっかの能なしが、こんな低くぶら下げたんだな」それを聞いてトムは、カウンターにつかつかと歩み寄り、ハサミを手に取ると、片っ端からすべての風船のひもを切り始めた。
〔チャプター 9の感想〕
トムとエズミー双方にとって、まさにサプライズ・パーティーでしたね!!
トムは道端で旧友に出くわして驚いたでしょうし、エズミーも、ついに彼の大学時代の話を聞かされて、さぞかし驚いたことでしょう。
これで別れるんじゃないか、と思いきや、第一章がいきなり10周年の記念日で始まったから、あと6年は続くことが確定しているわけです!笑
エズミーは25歳、35歳、45歳という年齢の辺りを節目に考えているみたいですね。トムが25歳の時にエズミーと出会って、10周年でちょうど35歳ということになります。エズミーは1歳くらい年上っぽいですが、まあ、その辺りで節目と考えて、何か思うところがあったんでしょうかね?
まだ、パズルのピースは半分くらいしか、はまっていないので、この後も何かあったのかもしれませんし、いやはや、どうなることやらって感じです。
藍が心配するのも変ですが、なんかこの二人危なっかしいんですよね。まあ、だからこそ、親近感が湧くというか、レナちゃんも5年くらい藍と過ごして、25歳くらいになったら別れようと思ってたのかな。それがある事が起こって、3年くらいに早まっちゃったわけだけど...←そのレナちゃんオチもう飽きた!笑
数十年前のある晴れた日曜日の藍💙とレナちゃん🎈(プリクラ撮って、一緒にマックを食べた記憶があります。←記憶のねつ造じゃなくて?笑←チキンマックナゲットのソースは、レナちゃんがバーベキュー派、藍はマスタード派でした🍔←だから、記憶のねつ造じゃなくて??笑笑)
チャプター 10
午前5時~6時
僕らが出会う2ヶ月前、ベッドの中で
2007年4月 ― ロイヤルフリー病院、ロンドン
「おい」と、トムは低くくぐもった声を発した。彼女の体がかすかに動いたのが見えたからだ。彼女は、まるで誰かが夜の闇にまぎれて接着剤でくっつけてしまったまぶたをどうにか引きはがすように、うっすらと目を開けた。が、すぐにまた閉じてしまう。目覚めることを拒んでいるのだ。
「アナベル」と、彼は彼女の名を呼んだ。それでも返事はない。
彼は乾いた喉の奥を潤すために、口の中のわずかな唾液をなんとか飲み込んだ。
「面会時間は午前9時からだぞ」
「ほんとに?」と、彼女がしわがれた声で返した。アナベルは腕をゆっくり伸ばすと、少しふらつきながら立ち上がった。「こんな時に本気でジョークなんか言うつもり?」
「ごめん。でも、この病院の規律は厳しいらしいぞ。奥の部屋にはギロチンが―」
「ちょっと、ちょっと、最後まで言わなくていいわ。ほんとに冗談を言い合う気分じゃないのよ、マーレイ。あなたはそんな状態でよく冗談なんて言ってられるわね」
アナベルはアボカド色の肘掛け椅子に座って眠っていた。本革ではなく、ビニールシートの簡易的な椅子だ。彼女はピッタリとしたダークブルーのジーンズに、白いシャツを着てジャケットを羽織り、まるでデートに出かけるみたいな服装だったが、髪は強風に吹かれて逆立ったように乱れていた。とても不快そうに体を伸ばしている。―その椅子では、寝れたとしてもせいぜい2、3時間といったところだろう、とトムは思った。彼女は、トムが自分よりも早く目覚めていたことに驚いている様子だ。あるいは、朝の5時に病院にいるという状況に驚いているのかもしれない。
まだ窓の外は暗かった。静けさの中で、廊下を歩く足音や台車の音が聞こえてきた。病院の朝の準備はもう始まっているらしい。やがて日が昇り、医師や看護師や見舞い客が、僕のベッドの周りに集まってくるのだろう。そして、まるで僕がここにいないかのように、僕を囲んで僕のことを話し出すのだ。
「ていうか、もう起きてたんだ?」とアナベルが言った。
トムはうなずいたが、再び声を発する気にはなれなかった。さっき彼女に声をかけただけで、喉がひりひりと痛んだ。代わりに彼は軽く手招きして彼女を呼ぼうと、自分の体にかけられていた、かゆくなるような毛布から手を離した。
アナベルが立ち上がって、彼のベッドの横に歩み寄ると、トムは水がなみなみと入ったプラスチックのコップを指差した。コップから突き出ている白いストローを、いとおしそうに見つめている。アナベルが彼に水を一口飲ませた。乾いていた口の中、喉の奥に水が触れる感触は、衝撃的かつ快感だった。乾ききって干からびた地面に降った、雨の最初の一滴のように、一瞬で皮下に染み込んでいく。
彼女は肘掛け椅子を引きずって、彼のベッドのすぐ横まで持ってきた。
「そこまでしてくれなくても―」
「わかってる」とアナベルが言った。「私がそうしたいのよ」彼女は彼からコップを受け取ると、水をつぎ足し、ベッドの横のテーブルにそれを置いた。「気分はどう?」
「最悪。喉が...」
「しばらく喉が痛むって病院の人が言ってたわよ」
「たしかに痛んでる」
「あなたが起きたら、私は看護師に伝えなきゃいけないのよ。それを条件に、ここに泊めてもらったんだから。あやうく帰されるところだったわ」
「ちょっと待って、1分だけ」とトムは親友の目を見ながら言った。
幼なじみの目を見つめながら、自分の身に何が起こったのかを、ばらばらのピースをつなげるように考えてみた。昨日の午後、僕はウォッカのボトルを持って、ワンルームのスタジオ風の自分の部屋に帰ったのだ。昔はボトルを2本持ち帰っていた。しかし今は、もう何年も禁酒を続けていたし、1本で十分だった。昼間、5日ぶりに部屋を出て、プリムローズ・ヒルを見下ろす出窓のある邸宅に出向き、広々とした部屋に置かれた高価なグランドピアノの前に立って、14歳の少年に音楽のレッスンをした。その帰り、自宅近くの小さな酒屋に立ち寄ってしまった。抗(あらが)えなかった。レッスン中ずっと、音にも教えることにも集中できず、めまいや不快感にさいなまれ、暑さに汗が噴き出し、緊張し、理由もなく吐き気を催した。理由はあるのかもしれないが、僕には説明のつかない大きな力に揺さぶられているようだった。
「大丈夫ですか?」と、ジョエルというその少年が聞いてきた。
「大丈夫」と僕は嘘をついた。
昔と同じだ、と感じた。まず不安感が押し寄せてきて、それから痙攣とパニック。叫んだり、物を壊したり、骨から皮膚を引きはがしたくなるような衝動に襲われ、今すぐこの場から駆け出し、どこでもいいからどこかに逃げ込みたい。
そんなことを特権階級の恵まれた10代の少年に、そもそも本当は僕など必要とさえしていないこの少年に、説明したところでどうにもならない。
すぐに自己嫌悪に陥った。自分の周りにいる誰も信用できないという気持ちになり、自分が一番よく知っている4つの壁に囲まれ、引きこもった。僕が望んでいたのは、周りの世界から自分を遠ざけることだけだった。実存の問題とかそんな大それたことじゃない。ただ、懸命に息をしていた。
今回の発作も、今まで何度か経験したパターンと同じ道筋をたどった。しかし今回は、それまでとは違い、自己療養の手段を失っていた。それには、ざらついた気分を優しくなだめるのではなく、根こそぎ消し去ってしまうアルコールが手っ取り早いのだ。トムにとって、不安や落ち込みからの脱却方法はアルコールを意味していたのだが、もう何年も前から、お酒は断(た)っていた。
最初の頃はまだ、お酒は選択肢の一つに過ぎなかった。―もし飲んでしまったら、とたんに道を踏み外し、奈落の底に真っ逆さまだとわかっていた。しかし今、孤独で壊れそうにふるえる心を抱(いだ)きながら、ボトルのキャップを外すことだけが、平穏への道筋に思えてくる。どうしてこうなったのか、今に至る道筋を思い返しながら、空けてしまったキャップの口を、30分ほどじっと見つめていた。自分の決意を試していたのだ。
トム・マーレイ、お前に抵抗するだけの力があるのか?
もちろん、なかった。答えはいつもノーなのだ。鉄の意志を気合で持ち続けていたからこそ、なんとか軌道に乗ったまま、正常な状態を保てていた。だけど、忘却の彼方(かなた)から、あの不安感が再び水面に顔を出してしまったら、もう助けを求めることなどできやしない。
最初の一口はひどい味だった。有害な化学物質を体内に入れたようで、記憶の中の苦(にが)い味と一致する。二口目も同様にまずかった。しかし、ベッドに座ってボトルから直接お酒を飲んでいると、数分後には、またしても慣れてしまった。
トムが酔っ払うのに時間はかからなかった。昨日の記憶で最後に覚えているのは、ぼんやりとしたままバスルームに入っていき、そこでパラセタモール(鎮痛剤)の箱を見つけたことだ。開けてみると、1ダースの半分は使用済みで、他の3ダースはすべての錠剤がきれいに収まっていた。
それからの記憶は、ない。
「僕は何錠飲んだんだ?」と彼はアナベルに聞いた。
「いっぱい」と彼女は答えて、彼の無能さに微笑んだ。どうしようもない彼を笑ってあげることしかできない自分が悲しかった。「どうやらあなたはアルコールに耐性がないみたいね。下戸(げこ)のくせして飲むから。まあ、そのおかげで、錠剤を大量に飲む前に気を失ってしまったのよ」
彼は恥ずかしそうに目をそらす。
「お酒のおかげで命は助かった、なんて面白いわね」
「笑っちゃうか? ハハハッて」
二人は再び沈黙に陥った。トムには聞きたいことが100個ほどと、謝らなければならないことがさらに100個ほどあったが、どこから始めればいいのか、しっくりくる最初の一言が浮かんでこない。
「どうやって...」と彼は言葉を発した。その質問が着地を終える前に、アナベルがすぐさま彼の知りたいことを察して、おもむろに携帯電話を取り出した。少しの操作のあと、画面を彼の顔の前に向ける。それはトムが昨夜送ったメールだった。
たすけけて
「これを7時半に受け取ったのよ。ちょうど私はデート中だったの。〈ソーホー通り〉の高級レストランで食事してたら、あなたからこんなメールが来るんだもん。相手の彼女はとても優しい人だから、『行ってあげて』って言ってくれたけど、今頃、私があらかじめあなたに頼んでおいて、私がさっさと彼女から逃げられるように仕組んだんだわって思ってるでしょうね。まあ、それはそれで良かったんだけど」と彼女は言った。
「ごめん」
「じゃあ、おわびとして...マーレイ」とアナベルが言った。冗談を言うつもりだったが、彼をまっすぐに見据(みす)えるとこみ上げてくるものがあり、途中で顔を伏せて、声を詰まらせ、彼女はむせぶように泣き出した。泣き顔を見られまいと、窓の方に顔を向ける。
「ほんとにごめん」と彼は言った。
アナベルが涙を指でふいてこちらに向き直ると、彼女の顔は少し赤らんでいた。彼女は怒っていた。あからさまに怒っている。彼は11歳の頃から彼女を知っていたが、こんな彼女を見たことは一度もなかった。一緒にやんちゃもしたし、さんざんいろんな経験をしてきたが、今になってようやく、彼はアナベルの新たな一面を見いだすことができたのだ。
「あんな状態のあなたを見つけたとき、どんな気持ちだったかわかる?」と彼女は歯を食いしばって言った。「だらしなく散らかった床の上で、あなたはぐったり倒れてたのよ」
トムは視線をそらそうとしたが、彼女の瞳に釘付けになったように、動かせなかった。
「死んでるのかと思ったわ、トム。あなたは死んだって。今度はやり遂げたんだって思った。そしてこの私が、第一発見者だって」
「ごめ―」
「いいのよ」と彼女がさえぎった。「今のあなたは目を覚まして、なんとか話せてるわけだし。ちゃんと聞いてほしいの」
トムは頷いた。
「私はもう二度とこんなことしないわよ、いい? もう絶対にしない。もう一度同じことをしようとしたら、その時は自分でなんとかしなさい。まったくもう、私は両親を失ってるのよ。その上、親友もだなんて、まっぴらだわ。あなたはほとんど家族みたいな存在なのよ、トム。こんなことはもうやめて。もう二度と」
トムの目から涙が溢れ、頬に流れ落ちる。
「ごめんなさい」と彼は言ったが、再び激しい喉の痛みとともに乾きを覚えた。彼が苦しそうに声をつまらせると、アナベルが水を差し出した。それから彼女はベッドわきの椅子に腰を下ろす。さっきまで彼女が寝ていた椅子だ。彼女の怒りは消え、代わりに重い悲しみがのしかかってきた。トムは、周りの人たちにこんな仕打ちをしてしまう自分の愚かな心根を憎んだ。
彼女が彼の手を取る。
「この病気が治らないってことは私も知ってる。でも、他にも抜け道があるってことを覚えておいて」
「わかってる」
「生きる理由は常にあるのよ、トム。時々そういうことを考えて、そう自分に言い聞かせるの」
トムは微笑んだ。「とても深いね」と彼は言った。「今のはどれくらいあたためておいた台詞なんだ?」
「茶化さないで。そういうところよ」
その瞬間、二人の気持ちが明るくなり、どんよりとした泣き顔が徐々に晴れ、ついに二人は心から声を上げて笑っていた。二人が涙を拭いていると、ブラインドの隙間から朝日が差し込んできて、部屋が段々と暖かくなってくる。
「僕の両親は?」とトムが聞いた。
「角を曲がったところのホテルに泊まってる。彼らは昨夜やってきて、お医者さんがあなたは大丈夫だって言ったから、一安心して真夜中に帰ったわ」
トムは顔をこわばらせた。ベッドの横に立ち、僕を見下ろす母親を想像した。人生で2度目も、病室で自分の息子を見下ろすことになろうとは。
「彼らはどんな措置を施した?」と彼は言った。「医者は」
「たいしたことはしてないわ。胃の中のものをポンプでくみ取って、炭水化物の飲み薬を飲ませたみたい」
アナベルとトムは、それから数分間、黙って座っていた。二人の間には、これまでに共有してきた経験の記憶が流れているようだった。がきんちょ二人組だった頃からずいぶんと時間が流れた。―昼休みになると二人で音楽室に行って、ニルヴァーナを聴きながら過ごしていた頃が懐かしい。―もう戻れない遠い昔のことだけど、彼らの中にはまだ子供のような心が残っていた。彼らはいまだに、神経質で、不器用で、不釣り合いではあるが、いいコンビなのだ。トムは彼女が病室に残って泊まってくれたことに感謝した。このようなひどい状況で、一緒にいたいと思う人は彼女の他にはいなかった。
夜明けが近づいてきて、壁掛け時計の針と針がまっすぐな一直線になりつつある。6時に向かって刻一刻と時が進む中、トムが沈黙を破った。
「ありがとう」と彼は言った。「何度もごめんって言っちゃったけど、ちゃんとお礼も言わなきゃね」
「どういたしまして」
「僕は―」と彼は言い始めたが、それ以上続けるにはもっと水が必要だった。水を一口飲んでから彼は言った。「僕は君に借りができた」
「それはそうね。私もそう思う。実は、あなたが償いのために何をすればいいか、もう決めてあるの」
「何?」
「アリ・マシューズが6月に仮装パーティーを開くのよ」と彼女が言った。「みんなスーパーヒーローの仮装をして来るの。あなたも一緒に来てね」
「無理」
「あなたに選択肢はないわ。償いなんだから来るしかないの。というか、あなたのためにもなるし。新しい知り合いを作るとか、そういうこと。自分の殻に閉じこもってちゃダメ」
「新しい知り合いなんていらないよ」
「それならそれで構わないけど」
「ガーディアン・ソウルメイトに入ればいいじゃないか? 出会えるって評判なんだろ」
「私はもうガーディアン・ソウルメイトに入ってるわ。昨夜の彼女もそこで出会ってデートしたんだけど、彼女もレズビアンかと思ったら、ちゃっかりボーイフレンドがいて、一緒に3Pしてくれるレズビアンを探してるんですって、まったくもう、なんなのよって感じ。その前に出会った子なんて、食事が済むやいなや、『これから〈ロザーハイズ〉のマンションでセックスパーティーがあるの、早く行きましょ』なんて手を引っ張るのよ。私はこれからデザートを食べるところだっていうのに」
トムは笑おうとしたが、喉がまた乾いて、むせてしまった。
「行ってもいいよ」と彼は、多少の諦めとともに言った。
「良かった」と言って、アナベルが立ち上がった。「さてと。私は7時には仕事に行かないといけないのよ。あなたのせいで、やらなきゃいけないことが溜まってるんだから」
彼女はコートを着ると、さっそく携帯電話をチェックしていた。
「少し寝なさい。もうすぐご両親が来てくれるから」
トムは親指を立てた。
「トム」
「ありがとう」と彼は言った。「そして、ごめん。何度も言うようだけど」
アナベルは彼に向かって微笑んだ。彼女は2本の指にキスをして、その指をトムの額に押し当てた。それから彼女が病室を去って、一人になった。静かになると、早朝の病院で働く人たちの物置が遠くから耳に届いた。窓辺に一時的に留まった鳩たちが、朝日に染まった街を見下ろしながら、うがいをするような声で喉を鳴らしていた。
〔チャプター 10の感想〕
『私の限りなく完璧に近い夢のような東京暮らし』でも、お酒の問題が取り沙汰されていましたが、そこまでいっちゃうと、本人の意志ではどうにもならないほど、一旦アルコールから離れても、何度でも引き戻されるんでしょうね。そういう観点からも、トムがエズミーと出会ったのは良かったのかもね!
ということは、捨てられて、というか別れて、また独りぼっちになったら、一気にふりだしに逆戻り、なんてことも...
せっかく1マスずつ着実に進んできたのにね。人生なんて1日で振り返れちゃうくらいだし、そんなもんってことでしょうか...←テンション低めだけど、どうしたの? またふられた?笑笑←ほんと、もてない男には人生はきついよ。トムの気持ちも九分九厘わかるというか、だけど、そうやって共感することで、心が癒されて、昨日も癒されたから今日も訳すか、って気持ちになるんだよね!!
トムはアナベルに感謝していましたが、藍はトムに感謝です。←アナベルは誰に感謝してるの? 3Pの人?爆笑
パート 3
チャプター 11
午前6時~7時
古いアルバムをめくると、昔の君がいた
2013年12月 ― ナイトン、レスター
トムはエズミーを起こさないように気をつけながら、そっと片足をベッドから降ろした。とたんに薄手のパジャマのズボンの裾から、ひんやりとした空気が入り込んできて、ぶるっと震えた。やっぱり寒いじゃないか、と愚痴りたくなる。エズミーの父、タマスが、ここは一年中暑いから、冬でも窓を開けて暖房を切って寝るんだ、なんて言っていたけど、彼が暑がりなのか、それとも僕が寒がりなのか。僕は具合を悪くしてから体質が変わったのかもしれない、なんて思っていたけど、そうでもなかった。
慎重に、トムは二人の体を包んでいた羽毛布団と2枚の毛布からするりと抜け出すと、半分ほど中身を出してあった旅行カバンから、スリッパとパーカーを取り出した。携帯電話の光を懐中電灯代わりに足元を照らしながら、物置を立てないように寝室を横切り、ドアを開けると、そっと廊下に出た。
クリスマスの早朝だった。イブの夜はエズミーの実家で過ごし、あと数時間後にはエズミーと一緒に、僕の実家があるローストフトに向けて東へ車を走らせることになっている。僕は少し前から目覚めていて、喉の渇きとトイレに行きたい欲求を同時に感じていた。それは昨夜の、塩分の多い豪勢な料理のせいであり、グレープジュースを大量に飲んだ結果でもあった。毎年クリスマスには、レナの母親、つまりエズミーの祖母が、僕用のガラス製の水差しに、ワインっぽくグレープジュースを注いでくれるので、他のみんなは赤ワイン〈クラレット〉をごくごくと飲んでいる中でも、一人だけ取り残された感はそれほどなかった。その赤ワインは、タマスが特別な時のためにガレージの奥にしまっておいたもので、埃だらけのボトルを何本か引っ張り出してきて、彼は大事そうに〈クラレット〉のボトルを拭いていた。
携帯電話の明かりを頼りに、トムはできるだけ床板がきしまないようにそろりと廊下を進んだ。階段の壁は、油性絵具を塗り込んだような〈アナグリプタ〉の壁になっていて、その上にエズミーの写真がたくさん飾ってあった。金メッキの額縁、木製の額縁、黒光りする額縁、そのほとんどすべてにエズミーの写真が収められていて、人生の重要なイベントの一幕(ひとまく)や、幼少期に両親が強要したのだろう、安っぽいスタジオで彼女がポーズをきめている写真もある。(そういえば、ナイトンに小さな写真スタジオがあった、とエズミーが言っていた。奇妙で不気味な男が経営していて、ショーウインドーには、子供を撮影した写真と、グラマーな女性モデルを撮影した写真が並べて飾られていて、彼はどちらの仕事もしていたそうだ。)
トムの写真がその壁に加わるまでに5年かかった。ロンドンの〈サウスバンク〉のスタジオで撮影された家族写真の中に、ぎこちなく笑う僕がいた。エズミーの卒業式の写真に挟まれている。彼女は二つの大学を出ていて、両大学での卒業式の写真だ。
階段を一段下りるごとに時間が遡っていく。数段下りたところで、彼女の10代の頃にたどり着いた。卒業式にみんなから書いてもらったのだろう、ピンクやブルーの蛍光ペンで書かれた幸運を祈る的なメッセージに彩(いろど)られた白いシャツを着て、にっこりと笑うエズミーがいる。歯には歯列矯正器が見える。その隣の写真には、舞台に立つエズミーが写っている。衣装や背景からすると、たぶん『オリバー!』を演じたのだろう、舞台上で一礼した彼女は、ここでも満面の笑みを浮かべている。観客の拍手が聞こえるようだ。それから、少しの空白期間があって(おそらくタマスがノエルとの不倫で、家を空けていた2年間を暗に示しているのだろう。失楽園に失敗した父は結局家に戻ってきた、とエズミーが言っていた)、写真でつづる年表が再開された。その写真には彼女の他に、僕の知らない3人の女の子が写っている。一人はスポーティーな子、一人は赤毛の子、もう一人はスパイス・ガールズ風の格好をした女の子だった。
もう何十回とこれらの写真をそれとなく横目で見てきたが、その日の朝は、まるで初めて見るかのように感じられた。トムは、それらの写真と写真の間の彼女がどんな女の子だったのかを想像した。10代半ばでお芝居に目覚めたエズミー。ただ、エンターテイナーとしての彼女は、8月の〈エディンバラ・フェスティバル〉に一度出演しただけで、芝居熱は冷めてしまったらしい。それから空白期間があって、21歳で卒業式を迎えたエズミーは、まっすぐにものを言う、政治的にも熱心な女性になっていた。このバージョンのエズミーは、ローラやジャミラやフィリーたちから聞いて、僕も心得ている。彼女たちは、エズミーがどのような女性になったのかを、そして、彼女を彼女たらしめているものは何なのかをよく知っているのだ。
それにしても、むすっと不機嫌な10代の女の子としてのエズミーはどこだろう? 家族に対しては、一応理解できる理由で怒り、世界に対しては、わけもわからず怒っていた時期というのはあったのだろうか? それとも、ずっと礼儀正しく、良心的で、勤勉な娘だったとでもいうのか? それはどの親も望む理想的なティーンエイジャーの姿ではあるが、理想通りにいく家庭なんてめったにないはずだ。
ついに階段の一番下までたどり着き、赤ちゃんの頃のエズミーを目の当たりにした。そういえば、この家に初めて来たとき、僕はこの写真を見て笑ってしまい、エズミーが恥ずかしがって、「ああ、その写真は無視して!」とか言っていたっけ。そんなに昔にまで遡っても、実際よく見れば、その目は明らかに彼女の目だ。すべての写真をつらぬく一本の糸のように、祖父母の膝の上に座っていても、寝室でロックバンド〈アイドルワイルド〉のポスターの下に立っていても、目だけはずっと同じだった。
「あなたのお気に入りはどれかしら?」
気づけばレナが立っていて、驚いてしまった。彼女は階段の手すりを持ち、踊り場から下りてこようとしている。ピンクのフリース素材のガウンに身を包み、髪は雑に上で束ねてある。
「ちょっとわからないですね。どれかを選ぶとなると難しいな。ざっと年表みたいに、いろんな彼女を見るのが好きなんですよ」
レナが壁にかかっていた一枚の写真を手に取った。
「私はこれが好きなの」と彼女は言った。それは、5歳か6歳くらいのエズミーだった。ピンクの花柄のドレスを着て、バラの木の前に立っている。「彼女のいとこのピーターの結婚式で撮ったのよ。彼女は5歳だった。あの頃が一番素晴らしい時期だったわ。その年に彼女は小学校に通い始めてね、本を読んだり、友達を作ったり。ちゃんとした女の子になったっていう実感があったのよ。この時初めて、親として私たちは良い仕事をしたって感じた。もう大丈夫だって心配が消え去ったわ。っていっても、1時間もしたら、またあれこれ心配しだすんだけどね」
トムは笑った。けれど、レナが言う達成感のようなものがどのような感覚なのか、彼はあまり考えたことがなかった。人生で最も重要な仕事がうまくいった(あるいは、うまくいきすぎて大勢の注目を浴び、社会的に気まずくならない程度にうまくいった)という感覚、とでも言えばいいのだろうか。僕の両親も含めて、僕が知っている親たちは、エズミーの両親みたいに表立って自分の子供を誇りに思うとか、あまり言わない。僕の両親のゴードンとアンは、子育ての素晴らしさや、その一端を担えた喜びを声高らかに表明することはめったになく、それこそクリスマス用の陶磁器の食器のように、特別な機会のためにひっそりと胸のうちに秘めておくのだ。タマスとレナはその逆だった。
「ずいぶん早くに目覚めたのね?」とレナはトムに言って、その写真を壁に掛け直した。
「そうですね。あまり眠れなかったもので」
「なら、せっかくだから、キッチンに行きましょ。もっと見せてあげるわ。あ、その前に、メリークリスマス」
「あなたにもメリークリスマス」とトムも言った。
レナは赤い革製のアルバムを何冊か抱えて、キッチンに入ってきた。1冊の厚さが5センチほどあり、LP盤のレコードくらいの大きさだった。それを見て、トムは『THIS IS YOUR LIFE(これがあなたの人生です)』という、出演者の人生を振り返るドキュメンタリー番組を思い出した。毎回番組の最後に、司会者のマイケル・アスペルが、まさにそんな感じの赤いアルバムを出演者に手渡すのが恒例だった。しかし、レナが抱えているアルバムの縁はボロボロに擦り切れ、表紙の金の文字はこすれて、かすれてしまっている。彼女はそれを彼の目の前のテーブルの上に、どしんと置くと、ガスコンロにやかんをかけに行った。
「紅茶でいい?」
「はい。お願いします」とトムは言って、一番上のアルバムを手に取った。
「それは彼女が赤ん坊の頃のものよ。1歳の誕生日あたりで終わってるはず。写真が色あせていってるのが気になるのよね。タマスが、写真をスキャンしてパソコンに取り込む、なんて言ってるけど、言ってるだけで全然やろうとしないのよ」
トムは表紙を開いた。左上の最初の写真には、病院のベッドで横たわるレナが写っていた。彼女の髪は真っ黒なソバージュというか、細かく巻いたパーマヘアーで、1980年代なら違和感なく溶け込めるんだろうけど、今だと人目を引きそうな髪型だった。彼女の腕の中には、母親の胸にぎゅっと顔を押し付けている、小さな肌色の君がいた。
レナはトムの前に、ミルクの入れすぎで乳白色になった紅茶を置くと、彼の横の椅子に座った。彼女はアルバムを自分の方に引き寄せ、写真を収めてあるビニールコーティングされたページを、6ページほど一気にめくった。
「これが私のお気に入りよ」と彼女が言った。
そこには見開き2ページに渡って、湖畔のコテージやその周辺で撮影された写真が収まっていた。隅には誰かの(たぶんレナの)手書きで、1982年、湖水地方に3世代集まる!と書かれている。
「私の祖母がイギリスに来たのはこの時だけだった。ロンドンのアパートで彼女をもてなすには、狭すぎてね。何しろ、私の両親と祖母のヤーニャ、それから私たち3人入れて6人でしょ。それで湖水地方のコテージに出かけたのよ。私たちは一度も行ったことがなかったんだけど、タマスの同僚の誰かが、あそこはいいところだって教えてくれて。それで、そこに1週間滞在したんだけど、5日間ずっと雨だったのよ。この日は確か木曜日だったと思う。唯一の晴れた日で、タマスはここぞとばかりにカメラを取り出して、パシャパシャと写真を撮り始めたってわけ。私の家族3世代が、初めて一緒に集まったのよ」レナはそこで一旦、間を空けた。その時のことを思い出しているようだ。「ヤーニャがエズミーに会ったのは3回だけ。あとの2回は私たちがハンガリーに帰った時のことで、彼女はその時にはもうかなり年老いていて、エズミーの名前どころか、私の名前もほとんど覚えていなかったわ」
「あ、だから、エズミーのミドルネームはアーニャなんですか?」
「まあそうね。ハンガリー語で『おばあちゃん』はナギャーニャって言って、それを短くした愛称がヤーニャ。さらに短くしてアーニャなんて可愛いかなと思って、付けたのよ」
トムは少し気まずくなって、変な汗をかきそうだった。エズミーについてそんなことも知らなかったことが気恥ずかしい。彼女の歴史に関しては、もっと前から聞いておくべきだったし、あるいは、彼女の方からぽろぽろと話したくなるくらい、僕が興味を持って接してくるべきだったんだ。今さらどうこう思っても仕方ないし、今知れて良かったと思うべきか。
「赤ちゃんの頃は、彼女はどんな子でしたか? おとなしい子だったのか、それともすごく騒がしい子だったのか」と彼は聞きながら、彼の姉のサラは絶対うるさい赤ん坊だっただろうな、と思った。
「ハッピーな子だったわ。もちろん夜泣きはしたし、そのたびに私たちは起こされて大変だったけど、でもたいていは陽気に過ごしていたわ。好奇心も旺盛でね、いつもベビーカーから外を見ようとするのよ。一度、人通りが多い中心街でベビーカーから落ちちゃったことがあったわ。私がしっかりとベルトで固定していなかったせいなんだけど」
「彼女は今でも好奇心旺盛ですよ。いつも知らない人の肩越しから、携帯の画面を覗き込んでます。どんなことを指で打ってるんだろうって」
レナがふふっと微笑んで、言った。「人は揺りかごから墓場まで、あまり変わらないのかもしれないわね」
「どうなんですかね」トムは紅茶を一口飲んだ。願わくは、変わってほしい。
レナはさらに数ページをめくっていった。彼女は写真が呼び起こす思い出に微笑んでいる。トムも微笑ましく、その様子を見ていた。その写真の意味を知る人が見れば、一枚の写真は記憶をめぐる旅へのチケットになるのだ。
「それで、あなたはどんな子だったの?」と彼女はアルバムから顔を上げて、言った。「思慮深い子供だったと想像できるけどね」
「実は、よくわからないんです。聞かれたこともないし」
「わかるはずよ! 赤ちゃんは大体どちらかの親に似るものなの。あなたたちの子供は、どっちに似るのかしらね」
レナにとっては何げなく口にした一言だったんだろうけど、トムは一瞬、思考回路が混線してしまった。
「あ...そうですね。えっと、なんていうか...」
「ごめんなさい」とレナが言った。「そんなこと言うべきじゃなかったわね。ちょっと出しゃばって、余計なことを言っちゃったわ」
「いいえ。ただ、僕たちは...というか僕は...なんていうか、僕たちはまだそういうことを話し合ってないんです。それはないんじゃないかな」と彼は言った。本当のことだった。実際、子供を作るとか、そういう会話をしたことはなかった。まあ、ローラが、『あなたたち、いつまでもぐずぐず煮え切らない態度を取ってないで、そろそろはっきり覚悟を決めなさいよ』的なことをつついてくることはあるけれど、子供を作るに至るには、その前に家族とか、結婚とか、子育てにはロンドンから郊外に引っ越さなきゃとか、考えることが山ほどあるのだ。それに、僕は自分のことを、親になるにはふさわしくない人間だと思っていた。家庭を築くこととは別の、一角(ひとかど)の人生を切り開いていける人間だと、必死に思い込もうとしてきたのだ。
しかし今、突然、彼はそのことを考えていた。赤ちゃんの写真を見ていたら、自分とエズミーの子供はどんな顔をしているんだろう、と想像をめぐらせていた。どのくらい僕を受け継ぐのだろう、そしてどのくらい彼女を。
「もちろんよ」とレナが言った。「あなたたちは若くて、私はいつかおばあちゃんになりたいなんて思っている、年老いた愚か者だもの」
「えっと...どうなんでしょうかね」とトムは曖昧に言った。
「でも、子供って祝福すべき存在なのよ。それだけは言っておくわ。あの子、一人っ子でしょ。時々ね、もっとたくさん子供を作っておけばよかったって思うのよ。時間なんてたっぷりあるって思ってたら、あっという間なのよね」彼女はそう言いながら立ち上がると、テーブルから離れた。「紅茶のおかわりどう?」
トムが「お願いします」と答えようとした時、廊下の冷たい板張りの床をこするような、誰かの足音が聞こえてきた。すると、エズミーが寝ぼけ眼で、もそもそとキッチンに入ってきた。
「ていうか、ここで何やってるの?」と、彼女はあくびを押し隠しながら言った。
「トムと思い出話をしてるのよ。彼が階段で写真を見ていたから、昔を振り返ってみようかしらって思ったの。紅茶でいい?」
「うん、お願い」とエズミーが言った。
「早起きだね」とトムは言った。
「あなたがなかなか戻って来ないから、探しに来たんじゃない」
「君はぐっすり寝てたけど」
「それはそうなんだけどね。わかるのよ」と彼女は言った。「女の勘ね。不穏な空気が眠りの世界に降ってきたの」エズミーは、テーブルに積んであるアルバムに目をやった。「ここまではわからなかったけど」
「トムにまだ見せたことなかったんでしょ」
「理由があって見せてなかったのよ」
「いい写真じゃないか」とトムは反論した。
「恥ずかしいのよ」彼女はそう言って、アルバムをテーブルの自分の方へ引き寄せた。「ああ、ママったら、何してくれてるの?」
「彼が興味があるって言うから。それに、こういうのって大事でしょ」とレナが言うと、娘から鋭い視線が飛んできて、チクッと刺さった。「今声がしたようだから、お父さんが起きたみたいね。紅茶を二階に持って行ってあげないと」
キッチンで二人きりになり、トムはエズミーの真横に座った。彼女が二つ目のアルバムを手に取り、めくり始める。このアルバムは、彼女が3歳と4歳の頃の写真を収めたもののようだ。肩までの長さの茶色い髪をした小さな女の子が、幸せそうな、それでいて探偵が周りを観察するような表情で写っている。当時の彼女は大体、ダンガリーズのコレクション(黄色、青、オレンジ)を着ていたようだ。靴は長靴の時もあれば、サンダルやジョギングシューズを履いている時もある。時折、家族みんなで写っているものも交じっている。家族写真はたいてい、ミッドランズ地区での日帰り旅行の時に撮ったものか、イングランドのビーチで休暇中に撮られたもので、背景にはいつもタマスの、古くて青いボルボ・ステーションワゴンが写っている。
ダンガリーズのコレクション。←モデルじゃなくて、色で選べよ!!笑
トムは、ヘアスタイルやファッションの変遷(へんせん)を見るのが好きだった。1986年の夏は生やしていタマスの口ひげが、1987年のエズミーの誕生日にはさっぱり消えているのを見て、笑った。時折、友達が写り込むことがあって、そのたびにエズミーはその子の名前を挙げ、今頃どうしてるんだろう? と吐息のように声を発した。そのほとんどが両親の友人の子供たちで、もう何十年も人生が重なることはないまま今に至るという。一応まだ、クリスマスカードを送るリストの下の方に、彼女たちの名前はそのまま残ってはいるらしい。リストを書き換えることなんて、よっぽどのことがない限り、ないから、と彼女は付け加えた。
「あなたの親もアルバムを持ってるでしょ」とエズミーが言った。「あなたのお家(うち)に行ったら、明日にでも見せてもらいましょ」
「アルバムなんて、僕は一度も見たことないけど」
「嘘つき」
「ほんとさ! テレビの上に、サラの写真と僕の写真が一つずつ立て掛けてあるけど、それだけだよ」
「きっともっとあるわ。子供の写真を一枚しか持ってないってことはないでしょ、トム。もしかしたら、ビデオで撮影した映像もあるかもしれないわね」彼女はそう言って、いたずらっぽく彼の肋骨(ろっこつ)を指でくすぐるように撫でた。「走り回る小さなトミー坊や」
「トミーなんて呼ばれてなかったよ」
「あなたが覚えてないだけじゃない? 私は呼ばれてた方に賭けるわ。ああ、見てみたい」
「あったとしても、僕は見ないよ」
「ってことは何? 昔の私のきわどい写真はめくりたいだけめくって、見てたくせに、あなたの写真を見るのは禁止ってこと?」
「そういうこと」
エズミーが次のページをめくると、ベニドルム '88 と上にタイトルが書かれた見開きページが表れた。ベニドルムは確か、スペインのリゾート地だ。レンタカーの写真から始まり、スペインらしい建物の内装、レンタル別荘だろうか、広い庭にプールもある。プールの横には、〈マイ・リトル・ポニー〉のアニメキャラがでかでかと描かれた水着を着て、両腕に浮き輪をはめたエズミーが写っている。タマスはデッキチェアに座って、タバコを吸いながらビールを飲んでいる。
「こうやって昔を振り返るのって、楽しいでしょ?」
「そうだね」とトムは言った。「君は今までに...」と彼は聞きかけて、途中でやめた。
「何?」
「え?」
「私は今までに、何?」
「ああ、何でもない」
「言いなさいよ」と彼女は言って、また彼の肋骨の辺りを指でくすぐろうとした。
「わかったよ。僕が聞きたかったのは、どんな風に見えるか考えたことがあるかってこと。もし僕たちがその、持ったとしたら。一つに合わさったら」
「ああ」とエズミーは言って、少しの間黙ってしまった。「わからないわ、本当に。あなたはどう思う?」
「今日までは考えたことなかったんだけど、さっき、初めてちょっと考えたんだ。階段で君の昔の写真を見ていて、もし僕たちが、3歳だったら、どんな感じになるんだろうって」
エズミーはしばらく何も言わなかった。彼女はテーブルの下でトムの手を取ると、指を交互にからめて手をつないだ。
「それは私も考えたことがあるの」とエズミーが言った。視線はまだアルバムの写真をじっと見つめたままで、ゆるぎないまなざしを崩そうとしない。「私は何度も考えたことがあるけど、あなたはそんなこと―」と彼女は続けたが、廊下の冷たい板張りの床を、脱げそうなスリッパでぺしぺしと叩くように歩く足音で中断されてしまった。
「お父さんがね」と、レナが言いながらキッチンに入ってきた。「あなたたちが出発する前に、みんなで散歩に行きましょうって。湖に行って、そこから二人はトムのお家に行けばいいって。だから、シャワーを浴びて準備してちょうだい」
「ちょっと、ママ」エズミーはとっさにつないでいた手を離し、電子レンジの時計を見上げた。「私たちは9時には出発しないといけないのよ」
「じゃあ、急いだ方がいいわね」とレナが言った。「それから、その電子レンジの時計は遅れてるのよ。どうやって調節したらいいのかわからないの」
「じゃあ、もう髪を洗わないとじゃない」エズミーはアルバムを閉じると、キッチンテーブルから立ち上がった。
トムは彼女を追いかけて、腕を取り、「僕はかまわないよ」と言いたかった。しかし、彼が立ち上がる前に、彼女はキッチンから出て行ってしまった。後で言おう、と僕は自分に言い聞かせた。後で。僕は携帯電話を取り出し、ニュースアプリを開くと、画面を見ながら紅茶を飲んだ。
〔チャプター 11の感想〕
写真は藍も好き💙←きもっ!!笑
藍は大学生の時、立て続けに女性にふられ、「もう英語を頑張る!」と思い立って、「CNNとかBBCとかを見るといいよ」という、教授だったか(?)誰かの言葉を鵜吞みにして、ケーブルテレビに加入した。それで、まあ、〈ラリーキング・ライブ〉とかも見てはいたけれど、おまけというか、副作用というか、デザイナーの〈パリコレ〉なるショーを、最初から最後まで丸ごと見てしまったのだ!!! うぶな藍の目には、そのキラキラ度合いは衝撃だった✨✨
それで、気づいたわけです。アプローチをすると、ふられてダメージを受ける。けれど、画面越しに見ていれば、キラキラが降ってくるだけで、心は痛まない。
それから告白とかはあまりしなくなった。25歳までは、20人くらいの人に告白して、ふられまくっていたけれど、25歳を過ぎてからは、1人か2人にしかアプローチしていない。
あ、思い出した! CNNとかBBCを勧めてくれたのは、H教授(准教授だったか?)だ。「教授室」なる空間に入ったのは、その時が初めてで、15分くらい、一対一で話をした。その日から自分の部屋を「教授室」っぽくしようと、大きなスチール製の本棚を買って、読みもしないのに本を買いあさっていた。笑
で、レナちゃん。レナちゃんは今はもう月に帰ってしまったんだけど(←かぐや姫?笑)、確かに実在したんです。だから、トムが階段でエズミーの写真を見ていたら、ふと気づくと、階段の踊り場にレナが立っていた、とか言われると、藍には階段に立つレナちゃんが浮かんでしまうんです...泣
もちろん、エズミーの母親と同じ名前なのは偶然なのですが、駅への階段を必死にのぼって、レナちゃんを追いかけたあの夜、レナちゃんの気持ちを変えられなかったあの夜が、思い出されて、泣けてくる...笑
チャプター 12
午後10時~11時
君の気持ちを変えられなかった夜
2014年7月 ― バラム、ロンドン
どっと拍手が沸き起こって、ほっとした。とはいえ、予想通りではあった。結婚式での演奏なんて、ちょろいものだ。お客さんは陽気な酔っ払いの集団だから、こっちが何をどう弾いたって、満開の笑顔が咲き乱れている。いや、一度だけ、会場が凍り付いた結婚式があったな。5、6年前だったか、演奏で参加した結婚式で、花婿(はなむこ)の親友がスピーチしたんだけど、その内容を聞いて、その場にいた全員が確信してしまった。彼と花嫁がかつてベッドをともにしていたことを。
トムはギターのプラグを抜くと、DJブースの後ろに放っておいたギターケースにそれを戻した。ビニール製のギターケースだけど、クッションが入っているからギターは傷つかない。それから彼は、一応ステージとして少しだけ高くなっている壇上から降りた。エズミーが彼を待っていた。演奏中、彼女はダンスフロアの後ろの壁に背をつけて立っていた。彼の演奏を見る時の、彼女のいつもの定位置だ。
「どうだった?」と彼は聞いた。
「美しい演奏だったわ、トム。本当に素敵」
「マジ? 自分ではちょっとフラットぎみになっちゃったかなって思ってたんだけど」と彼は言った。演奏の欠点を探して、どこがダメだったのか、彼女に言ってほしかった。
「うーん、私は何も気づかなかったけどね。っていうか、また私が音痴だとか言いたいんでしょうけど、他のみんなだって絶対気づいてなかったわ」
「それはみんながスローダンスを見てたからだよ。こっちはちっとも視線を感じなかったし」
「私だけはちゃんと見てたから、安心して」エズミーはそう言うと、手に持っていたグラスの中身を飲み干した。
トムが再び言葉を発する前に、サムが近寄ってきて、二人だけの会話はそれでお開きになった。サムはアナベルの新妻(にいづま)だ。彼女は少し酔っ払っていて、すぐにトムの体に彼女の腕を回してきた。
「すっごいよかったわ。もう完璧、トム!」と、彼女はかなり芝居がかった声で叫んだが、トムはあまり気にしなかった。というのも、サムはもともとかなり派手な女優であり、今は舞台で演技指導もしているのだ。これまでありとあらゆる役をこなしてきた彼女なりの、これも演出なのだろう。「まさに完璧。もうあたし泣いちゃったわ。ね、ほんとよね? アニー。涙がぽろぽろこぼれて、お化粧が心配だった、なんてね。ほら、アニーも何か言ってあげなさいよ。あなたも泣いてたでしょ」
「私も泣いちゃった」とアナベルが言った。「ほんとに素晴らしかった」
アナベルはトムを抱きしめて、「いろいろありがとう」と、今回のトムの大活躍に感謝した。アナベルとサムのファーストダンスの時は、フリートウッド・マックの『Landslide(地滑り)』を、たっぷりと時間が取れるように、ゆったりとしたアコースティック・バージョンに編曲して演奏した。それだけでなく、トムはアナベルの親友としてスピーチもしたし、結婚式で流す曲の選曲、プレイリストの作成もトムの担当だった。しかも、花嫁を花婿に差し出す父親役も、トムが務(つと)めたのだ。彼女の両親が、自分たちの娘が他の女性と結婚するなど、とうてい容認できないと、結婚式に来なかったからだ。
トムは、ちょっと失礼、と言って彼女たちの輪を抜けると、DJブースに入り、この日のために彼が作成した3つのミックスのうち、2つ目を再生するためにラップトップを操作した。するとすぐに、〈バラム・ボウル・クラブ〉の2階にある小さな多目的ホールの天井で、ミラーボールが光り、回り始めた。ちなみにこのミラーボールは、昔のカバーバンド仲間の一人であるモグスから借りたものだ。それから、ここから1キロも離れていないところに、アナベルとサムの新居があり、この後、親しい友人を集めて二次会を開く予定らしい。どうせ飲めや歌えのどんちゃん騒ぎになることは目に見えている。酒はもちろん、ドラッグをやりだす輩(やから)もいるかもしれない。トムはすでに二次会には行かないことに決めていた。そんな中で、一人だけ素面(しらふ)でいられるはずがないじゃないか。それはもう、乱交パーティーの中心で禁欲を叫ぶみたいなものだ。
空間にひしめくお客さんたちが、1曲目のサウンドが出力されると同時に、歓声を上げた。僕がプレイリストに仕込んだ〈80年代ヒットパレード〉の始まりだ。これこそが、僕の望んでいたことだった。もう何年もライブをやっていないから、生のお客さんの反応に飢えていたのだ。今は、教えることと作曲することが仕事のほとんどになってしまった。自分が演奏したり、自分がミックスした音楽を流し、お客さんがリアルタイムで返してくれる反応を耳で、肌で受け止めることが、僕は何よりも大好きなのだ。
以前であれば、ここでトムはDJブースを飛び出し、自ら火付け役の一人となってダンスフロアの群衆に混ざり、活気をたぎらせ踊り始めるところだが、今回はやめておいた。プレイリストを流しっぱなしにして、彼はDJブースを出ると、エズミーを探しに行った。彼女はビュッフェ・テーブルの横で、音楽に合わせて足を踏み鳴らしながら、ソーセージ入りの、こんがり焼けたロールパンが山盛りに並べられた銀のトレイを見ている。
「この曲が好きなんだね」と彼は彼女に言った。
「あ、音楽? そうね」
「スプリングスティーンだよ。みんなノリノリだね...」と彼は言って、群衆に向かってうなずいた。人数は10人そこそこだけど、ミュージックビデオの中みたいに、みんな腕を振り回している。
「いいんじゃない」とエズミーは言って、大きめの丸テーブルの席に座った。彼女の向かい側では、結婚式に飽きてしまった2人の子供が、使用済みのパーティークラッカーの筒を、交互に積み重ねて遊んでいる。
「なんだか落ち着かない顔をしてるわね」と彼女が声を張り上げた。爆音をかき鳴らし、スプリングスティーンが『ダンシング・イン・ザ・ダーク』を歌い上げている。
「このスーツのせいだよ」と彼も声を張った。
「当ててあげよっか。あなたはスーツを着るのが大っ嫌いなんでしょ?」
トムは微妙に眉をひそめ、子供がいじけるようにうなずいた。エズミーは、ロックンローラー的な、自由を求める生き方みたいなことを言っているのだろうが、正直に言えば、僕はスーツを着るのが嫌いなわけではない。久しぶりに着たら、スーツが思いのほか、きつくなったように感じ、そのことが気がかりなのだ。僕は生まれつきの痩せ形だったはずなのに、人生で初めて、お腹が出っ張ってきた感もあって、そっちが心配なのだ。一方、エズミーは、太ももにぴったりとフィットした花柄のワンピースを着ていて、美しかった。彼女はもっと太ももを細くしたいと言って、3つもジムのクラスに加入しているのだが、僕からすると、今のままの太ももでいてほしい。彼女の髪は軽くカールしながら、肩の下までさらりと流れるように下がっている。目の感染症にかかったとかで、コンタクトレンズが使えなくなった彼女は、こういうイベント事では初めて、紫色の角縁(つのぶち)メガネをかけていた。彼女としては不本意らしく、ぶつくさ文句を言っていたが、僕からすると、彼女のメガネ姿はすごくセクシーだと、前から感じていた。
「今年に入って3回目だよ」と彼は言った。
「嫌なら、フィリーとアダムの結婚式にはスーツなんて着ていかなくてもいいのよ」
「そして僕は、普段着のスラックスとシャツで来ちゃった、唯一の間抜けな男になるってか?」
「私は一緒にいても気にしないわ」
「君が気にしないのはわかってる。心配なのはフィリーだよ。彼女はおそらく警備員を雇って入口に立たせてる。正装じゃないと入れさせてもらえないんじゃないかな」と彼は言った。フィリーはエズミーの友人で今度結婚するのだが、彼女が最近、アダム(彼女の婚約者)の弟に言っていたことを、トムは引き合いに出した。もうすぐ義理の弟になるひげを生やした男に向かって、彼女は「結婚式までに、きれいさっぱりそのひげを剃って来てちょうだい。もし顔のどこかに3ミリ以上のひげを見つけたら、あなたは正式な家族写真から外れてもらいます」と言っていたのだ。
トムとエズミーはしばらくそのまま、そこに座っていた。曲が終わって、一瞬静寂に包まれ、また次の曲が始まった。すでに酔いが回ったダンサーたちが思い思いに腕を突き上げ、熱狂している。彼らはあと数時間、この店が閉まる時間まで、床に足を打ちつけ、飛び跳ね続けるのだろう。
二人で何度か結婚式に参加したことがあるのだが、大体このような状況に陥(おちい)ってしまうのだ。周りが盛り上がっている中で、二人だけぽつんと取り残されたように、沈んでしまう。「いつになったらあなたたちの結婚式に参加できるの?」という友人たちからの質問を片手であしらいながら、関わりたくない状況を横目に、自分たちはちっとも楽しめず、ただ時間だけが過ぎていく。少なくともエズミーは楽しくなさそうだ。僕は一応、新郎新婦が人生を共に歩むことを誓い合い、彼らの友人たちが踊ったり笑ったりしているのを見ることに、それなりの喜びを見いだしてはいた。
「基本的に管理しすぎなのよ。結婚したって、もううんざりって嫌気がさすだけ」と、エズミーがかつて言っていたことがある。ローラがエズミーに、なんでそうやって公然と結婚を忌(い)み嫌って、避けてるの? みたいなことを聞いた時だ。
「なるほどね」とローラは言った。「トム、あなたはどうなの?」
「うーん、僕は、結婚式は好きだよ。でも、僕は良い側面しか見てないのかもしれないけど」
「ほら! トムは結婚式が好きだって。正式に籍を入れるのはどうなの?」とローラが聞いた。「わかるでしょ、公(おおやけ)の証しというか、ちゃんと認めてもらうってこと。べつに盛大な式を挙げる必要はないのよ」と彼女は言ったけれど、遠回しに彼女自身の盛大な結婚式を引き合いに出していることは明白だった。彼女の結婚式では鳩が飛び、(7月なのに)氷の彫刻が飾られ、一番よくわからなかったのが、ディナーの前に〈マリアッチ・バンド〉の演奏を聞かされたことだ。なぜ大きな麦わら帽子をかぶった陽気なメキシコ人たちのバンドを呼んだのか、その場にいた誰もが首をかしげていた。
「結婚したって今以上に縛られるだけでしょ。国が推奨するシステムに組み込まれて」と、エズミーは茶目っ気たっぷりな笑顔を浮かべて言った。これから結婚を考えている友人たちを苛立たせることは、承知の上らしい。
彼女はこの種の発言を何百回と繰り返してきた。特に2年ほど前は、しょっちゅうそんなことを言っていた。あの頃は、彼女の友人たちがめったやたらに彼女に結婚を勧めていたのだ。彼女の気持ちを変えようと奮闘するかのように、トムとの結婚がどれほど実り多きものになるかを、熱く語って聞かせる彼女の友人もいた。
一方、トムの友人たちは彼に向かって、自分たちが結婚式を挙げる際に引き受けた様々な雑務の話を、まるで武勇伝を話して聞かせるように語っていた。結婚式という華やかな舞台は、男性よりも女性が中心となって取り仕切るべきだ、という世間にはびこる共通認識を覆(くつがえ)そうと躍起になるかのように、バンドの手配や車の予約をしたんだ、と得意げに話していた。とはいえ、花束や引き出物に関しては女性任せの男が多いようだったけれど。
そうこうしているうちに、二人とも30代に突入していた。前ほどは、周りから急(せ)かされることはなくなったが、今でもたまに、結婚に関する質問を浴びせられることがある。大体は、ローラとアマン(ローラの夫)の新居でバーベキューをしている時に、そういう話題を振られる。ローラ夫妻の新居は、ロンドン郊外の商業都市にあって、トムとエズミーがそこを訪れるたびに、どれだけその場所がファミリーにとって快適かを、さんざん聞かされるのだ。
「あなたたちはまだ、結婚反対!とかプラカードを掲げて練(ね)り歩いてるの?」とローラに言われたことがある。そのとき彼女は、娘のタルーラ(僕たちは「お嬢(じょう)」と親しみを込めて呼んでいる)を膝(ひざ)に乗せていた。お嬢は、ローラの膝の上で、ヒヒーンと馬の鳴き声を発しながら、上下に揺れていた。
「練り歩くも何も、私は何もしないって言ってるのよ。反対とかじゃなくて、しないの。結婚しました!ってプラカードを掲げて練り歩いてるのは、逆にあなたの方でしょ」
「たしかにエズミーの言う通りね」とローラが、若干とげのある言い方で言った。知識をひけらかすようにマウントを取ってきた友人を、暗に非難する時の彼女の口調だ。「私はね、結婚についてのあなたの考えが変わったのかって聞いてるのよ」
「何も変わらないわ。あなただってそうでしょ」
「うーん」ローラは首をかしげながら、娘を膝に乗せたまま体をひねるようにして、アマンの方を見た。「一度心に根付いた結婚観は絶対に変えられない、なんてこともないんじゃないか」とアマンはローラに言っていたらしい。
もちろん、エズミーとトムが結婚について話し合ったことは、少ないながらもある。付き合い始めて早々(そうそう)に、彼女が結婚する考えはないことを表明した。めまぐるしく変化する世界の中で、結婚という制度がいかに不必要かを彼女は語っていた。結婚式は大げさで、仰々(ぎょうぎょう)しくて、主役の二人に過度のプレッシャーを秘密裏(ひみつり)に与えるだけの、宗教的な儀式だと彼女は憤(いきどお)っていた。子供の洗礼式、結婚式、葬式くらいにしか、今後教会に足を踏み入れないであろうカップルへの神の名のもとの脅しだ、と。あるいは、教会で式を挙げずに、世俗的な結婚式にしたとしても、今度は神からのプレッシャーがない分、薄っぺらい結婚式になってしまう、と嘆いていた。いくら主役の二人が文学的な詩を読んだりして場をつないでも、(ラブコメのロマンチックなシーンを思い浮かべながら、「そのままの君でいて。君を丸ごとを愛するから」なんて歌い上げちゃったら、なおさら悲鳴を上げたくなるくらい、)悲惨な挙式になってしまう、と。
しかし、彼女が口にするこれらの不満は単なるカモフラージュにすぎないことをトムは知っていた。彼女が結婚観を形成するに至った真の問題は、結婚式や式を取り巻くあれこれにはあまり関係がなかったのだ。彼女の心の根っこには、父親の不倫があった。1993年に父親が家族を捨てて、2年間家に帰ることなく、若い女性と交際していたことが、父と娘の固い絆を引き裂き、彼女の心の中で、何よりも高い結婚への障壁になっているのだ。父親の相手の女性は、まだ大学を卒業したばかりの女の子で、名前をノエルといった。
トムがその不倫について知らされたのは、彼女と交際を始めてから半年ほど経った頃だった。―それは、軍人がそれ相応の任務を果たした後に制服に付与されるバッジのように、ようやく彼女に認められた証しだった。
「それからというもの、結婚は私には絶対に無理だって思って生きてきたの」と彼女は彼に打ち明けた。「玄関に置かれたいくつもの父のスーツケースを見た時からね」
「でも彼は戻ってきたんだよね」
「2年後にね」とエズミーはきっぱりと言ったが、まだ癒えていない心の傷が、うずくように痛んだ。「下品にもほどがあるわ。いい年した男が、自分のかつての教え子の一人と同棲してたなんて。みだらなヨーロッパ映画じゃないんだから」
「彼女は君の知り合いだったとか?」
「15歳になるまでは、毎週末のように家族ぐるみで過ごしてた。イビサ島で一緒にバカンスを過ごしたこともある。彼女は私のかつての友達の中で最悪な子だった。一緒に子供向けの映画を見に行くたびに、大衆にこびてるだけのチャラチャラした映画だとか、大人ぶってこき下ろしてたわ」
「どんな感じだったの? そのとき...」
「彼が家に戻ってきたとき? 彼は何事もなかったかのように振る舞ってたわ。『一時の気の迷い』だったとか言ってね。ママはそんな彼を受け入れたのよ」
トムとしてはイビサ島での様子も聞きたかったのだが、エズミーがさっさとこの話を終わらせようと途中をすっ飛ばしたのがわかり、それ以上聞かないことにした。それ以来、この話題にはあまり触れていない。その話に触れれば、一生癒えることのない彼女の傷口をほじくり返すことになるとわかっていたからだ。エズミーの家族に対する考え方、特に結婚に対する考え方は、その後、二度と元通りにはならなかった。それは、誰かが自由に手に入れたり、捨てたりできるものになっていた。彼女が好きでドアを開けっ放しにしているのだから、彼女のパートナーは暇な猫のように、いつでも自由に出入りできるのだ。
父親のタマスと彼女の関係は、時間の経過とともに修復されつつあるものの、何かあれば簡単に壊れてしまう、という危うさを抱えたまま生きていくことになった。トムはタマスのことが好きではあるが、だからといって、彼女に深い傷を負わせた彼を許せるかどうかはわからなかった。
トムはエズミーの手の上に彼の手をそっと重ね、彼女の目を見て微笑んだ。その時、テーブルの上に積み上げられたパーティークラッカーが崩れ落ちた。カラフルなクラッカーが目の前をころころと転がっていく様を、二人は微笑ましく眺めていた。
1時間ほど経ち、トムがセットした曲が一巡する頃には、ダンスフロアの熱気はピークに達していた。主役のアナベルとサムは、フロアの中心で裸足でステップを踏みながら、〈プロセッコ〉のボトルを二人で交互に回し飲みしている。ニールとポッドとアリは、ネクタイを頭に巻いて、ミック・ジャガーにでもなったつもりなのか、腰を変にくねらせながらノリノリで踊っている。彼らのパートナーたちは、疲れた様子ではあるが、それを愛おしそうに見守っている。腕や首に思いっきりタトゥーを入れた金髪の女性店員が、お酒の入ったショットグラスをたくさん載せたトレイを運んでくると、フロアに大きな歓声が上がった。
エズミーがトイレに席を立つと、それを見計らったようにアナベルが彼のところにやって来て、彼女が座っていた椅子に腰を下ろした。
「それで、やっぱりまだ大反対?」と彼女が言った。
「たぶんね」
「最後に結婚について話したのはいつ?」
「2ヶ月くらい前かな。ローラが聞いてきた」
「あなたたち二人きりでは? パーティーとかじゃなくて」
「わからない。たぶん何年も前だと思う。話題にのぼってこないんだ」
「ちゃんと話したほうがいいかもね」
「どういう意味?」
「つまり、あなたが頼み込むのよ。そうすれば、彼女の気持ちが変わるかもしれない。今日の彼女は幸せそうだった。式の最中もその後も」
「彼女が幸せそうに見えたのは、彼女は君のことが好きだからだよ。君の結婚を心から祝福してるんだ。急に結婚自体が好きになったわけじゃない。それにこの30分間、彼女はほとんど何もしゃべってない。きっと父親のことを考えているんだ。僕にはわかる」
「ちゃんと聞いて、トム・マーレイ。そんなことわかりっこないでしょ。いい? 彼女はあなたを変えた。ってことは逆の可能性も、ほんのわずかだとしても、ある。あなたが彼女を変えるのよ」
そう言ったところで、アナベルはサムに引っ張られるようにして、ダンスフロアに戻っていった。トムのセットリストは1990年代のセレクションに突入し、ブリティッシュ・ロックがフロアを席巻した。
そのうちに、エズミーが彼のところに戻ってきて、彼はテーブルに置かれたボトルから赤ワインをグラスに注ぎ、彼女に手渡した。そして彼自身は、さっきから飲んでいた甘いフルーツジュースに口を付けた。窮屈(きゅうくつ)なお腹をさすりながら思う。白いシャツのボタンを内側からお腹が押し広げているのは、アルコールの代わりに、こうして糖分の多い飲み物ばかりを大量に摂取しているせいではないか。
「君も踊ったらどう? ほんとに」と彼は言った。ロックバンド〈スウェード〉が奏でる『Animal Nitrate(官能的硝酸エステル)』が、ひずんだギター音の余韻を残しつつ終わった。「これからどんどんいい曲が続いていくからさ」
「もう少ししたらね」と彼女は言った。「他の人たちを見てると楽しいわ。みんなほんとに楽しそうなんだもん」
アナベルに言われたせいかもしれないが、どことなく彼女の声に、ちょっとした変化を感じた気がした。ひょっとして、彼女は結婚式をうらやましいと思ってる?
「みんな楽しそうだね」
「今日のあなたはよく頑張ったわ」彼女はそう言って、彼の頬にキスをした。彼は彼女の息から赤ワインの香りをかすかにかぎ取った。「あなたを誇りに思うわ」
「ありがとう」
「それから、さっきはごめんなさい。ちょっと不機嫌だったかもしれないわね」
「いいんだよ」と彼は言ったが、それ以上は言う必要ないとわかっていた。オアシスの『Don't Look Back in Anger(過去は怒って振り返るものじゃない)』の最初の音がフロア中に響き渡り、一瞬遅れて酔っ払いたちが歓声を上げ、みんなで歌い始めた。
「エズ。君は今まで僕たちのことを―」
「トム。今夜は聞かないで」
「僕はただ―」
「私の気持ちは変わらない。それはあなたもわかってるでしょ?」
「わかってる」
「私は、私たちのことをただの―」
「そうだよ」
「そうって、私たちってそうなの?」と彼女は言って、彼の方を向き、彼の目を覗き込んだ。
「そうだよ」と彼はもう一度言ったが、十分に説得力のある言い方ができたかどうかわからなかった。というか、自分がここで説得力のある言い方をしたいのかどうか、自分の気持ちもよくわからなかった。
彼は携帯電話を取り出した。時刻は10時59分。顔を上げると、エズミーはダンスフロアの方を見つめている。彼女は再びぼんやりとしていて、ほとんど悲しそうな顔をしていた。
「よかった」彼女はそう言うと、彼の手を取った。
〔チャプター 12の感想〕
結婚って、(僕みたいな)結婚できない人には憧れで、できる人にはうざいというか、窮屈というか、エズミーは自由な生き方というか、気持ちの持ちようとしての気楽さ、みたいなものを求めているのかもしれませんね。でも、なかなかお気楽には生きられないものなんですよね。次から次へと(僕の場合ですが、)悩みの種が頭上からひらひらと花びらみたいに舞い降りてきて、すべてよけるのは無理なので、(後から考えるとどうでもいいことを)毎日毎日悩んでいます。エズミーも瘦せようとジムに通っていたりするので、彼女にとってもなかなか人生は思うようにいかないのかもしれません。トムはピアノも弾けるし、ギターも弾けるし、パソコンで作曲もできるし、(彼女が惚れるくらいの)才能はあるようですが、ただ、彼もお腹が出てきたのを気にしたり、ライブから遠ざかっていたりと、あれこれ悩みは尽きないようです。←悩みがなかったら、小説(人生)が成り立たないからね!笑
と思ったけど、具体的な理由があったんですね! エズミーの結婚嫌いは父親の不倫が原因でした。藍は薄情なのか、「親と子供」の関係については、多くの小説に共感できないんですよ。「恋愛」については大いに共感できるのですが、「親が...だから、私は悲しい」とか言われても、ん? なんで? といつも首をかしげてしまいます...💦←君は育ちが悪いというか、エズミーみたいに親との固い絆なんてないからね!笑←まあ、僕にとってはもともと親は残念な存在だから。←つまり、親の君への仕込みがなってないんだよ!!←仕込みって、僕ってラーメン?笑
最後のシーンは、二人の気持ちの機微(きび)が表れていて、二人のやり取りの表現が絶妙でしたね。悲しそうな顔をしながら「よかった」と言うエズミー。「そうなの?」「そうだよ」の「そう」が何を指しているのかは、はっきりとは書かれていないのですが、「人生の一時(いっとき)のパートナーにすぎない」ってことでしょう。切ないシーンで大好きです。
藍の胸はとても締めつけられます。笑←そこで笑っちゃダメなんだよ!笑
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